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 糖尿病とは
1)糖尿病とはどんな病気か
 糖尿病はインスリンの作用不足による病気です。膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足したために、摂取した食物の栄養が体の中でうまく利用できず血液中のブドウ糖濃度(血糖)が高くなった状態をいいます。遺伝的素因に運動不足、肥満などの環境要因が加わって発症し、慢性高血糖状態を主な特徴とします。この慢性高血糖状態が10〜20年持続すると比較的細い血管に障害を起こす細小血管症(網膜症、腎症、神経障害など)が起こります。また糖尿病は動脈硬化により比較的太い血管に障害を起こす大血管症(心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症)の発症・増悪因子となります。これら合併症の発症予防や進行を遅らせるためには糖尿病発症直後からの適切な血糖コントロールが重要です。

2)インスリンとは
 膵臓(ランゲルハンス氏島のB細胞)から分泌されるホルモンで体内での栄養素の利用を助ける働きがあります。食後に血液中のブドウ糖が増えるとインスリンはたくさん分泌されます。食後に増えた血糖はインスリンの助けを得て肝臓、筋肉や脂肪組織へ吸収されてエネルギーとして利用されたり貯蔵されます。正常人の一日のインスリン分泌量は40−50単位といわれています。

3)栄養代謝とインスリン
・糖質の代謝;摂取した糖質は消化されブドウ糖となり血液中に吸収されます。血液中のブドウ糖はインスリンの作用によりエネルギー源になったり、一部はグリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられ、更に余分なものは脂肪として貯えられます。
・蛋白質の代謝;蛋白質は消化されアミノ酸として血液中に吸収されます。血液中に吸収されたアミノ酸は肝臓に取り込まれインスリンの作用によって再び種々の蛋白質として合成され私達の体の構成成分となります。
・脂肪の代謝;脂肪は消化されグリセロールと脂肪酸になり血液中に吸収され肝臓に取り込まれます。取り込まれた脂肪酸はエネルギー源として利用されたり、インスリンの作用により脂肪に合成され皮下脂肪として貯えられます。

4)糖尿病の成因に基づく病型
・1型糖尿病;20ー30歳以下の若年者に多く、膵臓のβ細胞の破壊により絶対的なインスリン欠乏を来たし発症したもの。
・2型糖尿病;インスリン分泌低下やインスリンが効きにくくなり
  (インスリン抵抗性)発症したもので、40歳以上の成人に多い。
・その他の特定の原因、疾患によるもの
 A.遺伝子異常が同定されたもの
 B.他の病気などに伴うもの;膵臓病、内分泌疾患、肝臓病、薬剤(ステロイドホルモンetc.)など
・妊娠糖尿病;妊娠によって引き起こされた糖尿病


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糖尿病発症の原因
・1型糖尿病;自己免疫、組織適応抗原(HLA)との関連、環境因子としてウィルス感染が発病の重要な因子として注目されています
・2型糖尿病;遺伝因子に種々の環境因子が加わって発病するとされます。食べ過ぎ、運動不足、肥満、ストレスなどでインスリン抵抗性が生じ、インスリンの必要量が増加すると、初期にはインスリンがたくさん分泌 され血糖値が下がります。そのため空腹感が生じ食欲が増え更に食べ過ぎの状態となります。しかし、この状態が長く続くと膵臓が疲労してインスリンの分泌が低下し、高血糖状態になり糖尿病を発症します。
・食べ過ぎ;食べ過ぎると高度な血糖上昇がおこりインスリンの必要量が増えます。余分なカロリーは脂肪として蓄積され、この脂肪がインスリンの働きを妨害し(インスリン抵抗性)、インスリンの必要量が増えます。
・運動不足;運動不足はインスリンの働きを低下させ、インスリンの必要量を増やします。
・肥満;肥満はインスリン抵抗性の状態にし、インスリンの必要量を増やします。  
・ストレス;ストレスにより、血糖を上昇させたりインスリンの作用を妨害するホルモン(アドレナリンやグルココルチコイドなど)が分泌され、インスリンの必要量が増えます。

 糖尿病と診断するには
 糖尿病の新しい診断基準 (2010年7/1日(糖尿病の分類と診断基準より引用)

A.以下のいずれかに該当する場合には<糖尿病型>と判定。
 @ 随時血糖値200 mg/dl以上が確認された場合。
 A 早朝空腹時血糖126 mg/dl以上。
 B 75gブドウ糖負荷試験で2時間値200 mg/dl以上。
 C HbA1c≧6.5%の場合。
   (但し,HbA
1c はJapan Diabetes Society (JDS)値+0.4%).


B.別の日に再度<糖尿病型>が確認できれば糖尿病と診断。
   (但し, HbA
1c のみの反復検査による診断は不可とする。)
 また,血糖値とHbA
1c が同一採血で糖尿病型を示すこと(@〜BのいずれかとC)が確認されれば,初回検査だけでも糖尿病と診断する.

C.血糖値が糖尿病型(@〜Bのいずれか)を示し,次のいずれかの条件がみたされれば,初回検査だけで糖尿病と診断
 ・糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在
 ・確実な糖尿病網膜症の存在

D. 過去に糖尿病として診療された場合は,現在の検査結果にかかわらず,糖尿病と診断するか,糖尿病の疑いをもって対応する.

F.
 
診断が確定しない場合には,時期をおいて再検査する
  
G. 糖尿病の臨床診断に際しては,糖尿病の有無のみならず,
  成因分類,代謝異常の程度,合併症などについても把握する.


・75gブドウ糖負荷試験の判定基準

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注) 正常型であっても1時間値が180以上の場合は糖尿病型に移行する率が高いので境界型に準じた扱いとする。

境界型糖尿病
糖尿病三大合併症は少ないが,動脈硬化の危険度は正常より高い

HbA
1c 6.0〜6.4%(JDS値 5.6〜6.0%): 糖尿病の疑いが否定できず

HbA
1c 5.6〜5.9%(JDS値 5.2〜5.5%): 将来糖尿病の発症リスクが高い

「糖尿病予備軍は大丈夫?」
糖尿病実態調査によれば、平成14年は糖尿病予備軍が約880万人とされ、平成9年と比べ約200万人も増加しています。糖尿病予備軍は血液中のブドウ糖の値(血糖値)が、正常よりは高く、糖尿病と診断される値よりは低い状態です。空腹時の血糖値では110(mg/dl)以上126(mg/dl)未満の方を境界型といい、予備軍に当たります。 最近の研究では、予備軍の中でも肥満があり、血圧や中性脂肪値も高いと、動脈硬化の進行が早まって、予備軍の時期でも脳卒中や心臓病を起こしやすいとされています。自覚症状が全くないので、予備軍だと気づかずに過ごしてしまうと本当の糖尿病になる恐れがあります。さらに気づかないうちに糖尿病になり、糖尿病が指摘された時には、網膜症、腎症、神経障害などの合併症が起きている可能性があります。
従って予備軍の時期から糖尿病にならない努力が必要です。
1日20分以上できれば週4日以上歩いて適正体重を目標とします。
予備軍を糖尿病に進ませないためには、生活習慣の改善、食事及び運動療法が大切です。まずは歩くことから始めましょう。
「メタボリックシンドロームに注意しましょう」
肥満、高脂血症、高血圧、高血糖を併せ持っている人のことをメタボリックシンドロームと言い、動脈硬化による病気(心筋梗塞や脳梗塞など)を起こしやすくなります。これらの病気は肥満、特に内臓脂肪が蓄積した肥満と密接に関係しています。日本内科学会の診断基準(2005年4月)ではウエスト回り男性85cm以上、女性90cm以上。加えて、高脂血症(中性脂肪値150mg/dl以上またはHDLコレステロール値40mg/dl未満)、高血圧(収縮期血圧130mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上)、高血糖(空腹時血糖値110mg/dl以上)のうち
2つ以上該当するとメタボリックシンドロームと診断されます。メタボリックシンドロームと診断されたら、まず生活習慣病を改善する食事療法や運動療法を続けます。それでも改善しない時は薬物療法が考慮されます。メタボリックシンドロームの人は、40歳以上では5人に1人とも言われていますので注意しましょう。
「ペットボトル症候群ってどんな病気?」
真夏に汗をかくと大量の水分を飲みたくなります。その時にスポーツドリンクばかりを1日に2〜3リットルも飲むと、スポーツドリンク中の糖分が大量に体内に入り、血液中の糖分(血糖値)が急上昇します。普段はまったく異常のない人が、血糖値の急上昇により大量の尿が出て脱水状態になり、のどが渇き、さらにスポーツドリンクを飲み続けると血糖値が異常に高くなり昏睡状態になる事があります。このような病気をペットボトル症候群と呼んでいます。特に10代から30代の人で肥満があり糖尿病の血縁者がいる人糖尿病予備群の人がなりやすいようです。治療が遅れると生命の危険を伴う事もあります。
夏場の水分補給には糖分を含んだ清涼飲料水をだけでなく、水やお茶なども混ぜて、糖分の摂りすぎに注意してください。

 「糖尿病の合併症について」

  糖尿病は正しい治療を受け、良好なコントロール状態を維持すれば決して恐ろしい病気ではありません。
しかし、治療を受けずに放置すると合併症が出てきます。


糖尿病の慢性合併症

A.三大合併症
  
糖尿病性網膜症糖尿病性腎症及び糖尿病性末梢神経障害があります。
  網膜症と腎症は
細小血管症と呼ばれ、比較的細い血管障害により起こります。

1)糖尿病性網膜症
 症状;・初期には症状なし。・視力の低下。・目の前に黒いものがちらつく。・さらに進行すると失明。

 病期;正常、単純性網膜症、前増殖性網膜症、増殖性網膜症

 治療;・正常から単純性網膜症は血糖コントロールのみ
    ・前増殖性網膜症から早期の増殖性網膜症は光凝固法
     (レーザーでもろい新生血管を焼く治療)。
    ・硝子体出血と網膜剥離は硝子体切除術
     (眼底出血で濁った硝子体を取り除く)。

 定期的な眼底検査が大切(受診間隔の目安)

  ・正常から単純性網膜症の初期___________1回/年
  ・単純性網膜症の中期_________________1回/3〜6カ月
  ・前増殖性網膜症以降は状態により________1回/1〜2カ月

2)糖尿病性腎症

 症状;・尿に蛋白がでる。血圧が上がる。むくみが出る。

 治療;・血糖コントロール。・食事療法(蛋白制限)。
    ・薬物(降圧剤、利尿剤)による症状の改善。人工透析

3)糖尿病性神経障害

末梢神経障害

 症状;
    ・手足がじんじんほてる。手足が冷える。手足が痛む。

    ・手足がしびれ、感覚が鈍くなる。

 治療対策;
・血糖コントロールをよくすれば早期であれば回復します。

・しびれや痛みがあるときは飲酒で悪化するので禁酒が必要です。
・手足の感覚が鈍くなると、火傷や怪我に気づかず、皮膚の潰瘍や壊疽を起こします。しかし、まったく痛みを感じ ないこともあります。毎日、足をよく見て、きれいに洗い清潔に保ちます。
・足にうおのめ、水虫なある人は早めに治療しましょう。
・爪の切り方や靴の選び方に注意しましょう。
・湯たんぽやこたつによる低温やけどに注意しましょう。
・長時間の正座は避けましょう。
・靴をはく前に靴の中に小石がないかよく見ましょう。
・裸足でなるべく歩かないようにしましょう。(とくに、夏の浜辺)

自律神経障害(内臓の働きを調節している神経の障害)

  症状;・がんこな便秘。・下痢。・尿の出が悪い。
       立ちくらみ。
インポテンス

  治療;血糖コントロール及び症状に対する薬物による治療。
     このような症状は糖尿病以外の病気でも起こるので
     早めに
医師に相談して下さい。

B.動脈硬化(大血管障害);比較的太い血管に動脈硬化を起こす。

 脳卒中
   ・脳血栓(脳梗塞);脳の血管が血栓でつまる。
    糖尿病の患者に多い。

   ・脳出血;脳の血管が破れて脳内に出血する。
    発作が起こると手足の麻痺、言葉がでなくなる、
    意識を失うなどの症状が出る。

 狭心症、心筋梗塞

 ・狭心症;心臓の筋肉に血液を供給する動脈(冠状動脈)が
       動脈硬化を
起こし、内径が狭くなる(狭窄)。

 ・心筋梗塞;冠状動脈が動脈硬化を起こし、完全につまる(閉塞)
      発作がおこると、胸がしめつけられるような痛み(胸痛)を感じる。
      糖尿病患者では胸痛を自覚しないことがあり注意。

C.足の血管の狭窄あるいは閉塞(閉塞性動脈硬化症ASO)

  症状;間欠性跛行(歩くと足が痛くなり、休むと歩ける)。
     ひどくなると足先の方から血管がつまり、痛みとともに
     壊死(えし)を起こす。(壊死を起こすと赤黒く変色)。

 予防対策;・血糖コントロールが基本。・体重を適正に保つ。
      ・血圧を正常に保つ。動物性脂肪の食物は避ける。
      ・禁煙を守る。 
D.その他

・白内障、・皮膚病変(水虫、湿疹、皮膚のかゆみ)、・感染症

糖尿病の急性合併症

糖尿病性昏睡

 高血糖になると血液が濃くなって体内に水分を多く必要とする状態になり(浸透圧の上昇)、喉が渇き水をたくさん飲むようになります。それに伴い、尿量が増え(多尿)、尿の回数も増え(頻尿)、水分が不足した状態(脱水状態)になりやすくなります。高血糖に伴う昏睡には高浸透圧性非ケトン性昏睡とケトアシドーシス性昏睡があります。

高浸透圧性非ケトン性昏睡
 
著しい高血糖で血液の浸透圧が上昇すると、脳の働きが障害されて昏睡になります。血糖値が500mg/dl以上になるとその危険があります。多くは高齢者(60歳以上)に発症します。

ケトアシドーシス性昏睡
 
インスリンの作用不足のために、糖代謝が著しく障害されてくると脂肪代謝も障害され、体内の脂肪の分解がすすみ、脂肪酸からケトン体が作られ血液中にケトン体が増加し、やがて尿中にも放出されます。ケトン体が増えると血液は酸性に傾き、さらに血液の酸性が進むと昏睡になります。多くは若年者(30歳以下)に発症します。
 
いずれも、適切な治療を早期にしないと死に至るので病院を緊急受診する必要があります。
2型糖尿病は40歳代頃から増え始め、初期には自覚症状が乏しいため、特に40歳代以降の人は健康診断などによる早期発見及び早期治療が重要です。

 糖尿病の食事療法

  食事療法;必要以上に食物を摂取しないようにしてカロリーを抑え体内のインスリン需要量を減らします。
規則正しい食生活
バランスのとれた食事
  指示されたエネルギー内で糖質、蛋白質、脂質のバランスをとり適量のビタミン、ミネラルも摂取させていずれの栄養素も不足ない状態にする。一般的には指示エネルギー量の1/2は糖質、蛋白質は標準体重1kg当たり1.0〜1.2g(1日50〜80g)とし、残りを脂肪でとる。
適切な1日の総エネルギー量(指示エネルギー量)性、年齢、身長、体重、身体活動量を考慮してエネルギー摂取量を決定する。通常、男性では1400〜1800Cal、女性では1200〜1600Calの範囲にある。

・指示エネルギー量=標準体重×身体活動量
 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
例 女性、47歳、身長157cm、体重60kg
  仕事;普通の労作。
  病状;糖尿病代謝異常は軽い。
  標準体重=1.57(m)×1.57(m)×22=54.2kg
  身体活動量 30 kcal/kg
  1日のエネルギー摂取量=標準体重×身体活動量=54.2×30=1626 kcal
  80kcalを1単位として単位に換算すると、1626 kcalは約20単位となります。


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 指示エネルギー量は体重の増減、病状などにより適宜かわってきますので、常に医師の指示に従って下さい。

・食品交換表の使い方
(食品交換表とは)
 食品交換表は主に含んでいる栄養素によって食品を表1〜表6に分類し、食品のエネルギー80kcalを1単位と定め作られている。必要なエネルギー量とバランスのとれた食事のとり方をわかりやすくするためのものです。


(食品交換表を利用するときの注意)
・毎日どの表の食品も1単位以上はとり、食品の交換は同じ表の中で行う。
・食事は朝、昼、夕にほぼ等しいカロリーをとるようにする。
・高血圧や腎症がある場合は塩分制限をする。(7g/日未満)。特に神経障害のある人や高齢者は味覚障害もあり塩分のとりすぎに注意する。
・腎機能障害のある人は蛋白制限(0.8g/kg)をする。
・運動のみによって体重を減少させることは困難であり、運動しているからといって食事療法を怠らないようにしましょう。(例えば時速5kmの歩行1時間で200kcal消費するとすれば、脂肪組織1kgを減らすのに時速5kmで40時間歩く必要があります。)
・付録の飲み物、菓子類、アルコールはなるべく避ける。糖尿病の人の飲酒は原則として禁止です。アルコールはインスリンの作用を妨げます。さらに低血糖発作を起こした時、肝臓でのブドウ糖生成を抑えるので低血糖を重症にします。
・香辛料や塩分は食欲を増進させるので注意しましょう。

糖尿病の運動療法

運動療法;運動療法はエネルギー消費を増加させ、代謝を盛んにしてインスリンの作用をより効果的にします。運動療法はインスリンの働きをよくするために行うもので痩せるためにするものではありません。
運動の種類;いつでも、どこでも、一人でできる歩行が最適。
運動の強度; 準備運動、整理運動を行い、運動中の脈拍が
1分間に100〜120回、(180ー年齢)以下でおさまる範囲とします。


運動量;歩行では1回15〜30分1日2回。
運動の頻度;少なくとも週3回以上、できれば毎日行う。

運動療法の注意点

・なるべく食後1時間経過した時に行う。
・軽い運動を短時間から始め徐々に運動量を増やす。
・決して無理をせず、体調の悪い時は控える。
・インスリンや経口糖尿病薬を使っている人は運動中の低血糖に注意する。 運動時には必ず砂糖やブドウ糖を携帯する。


(運動療法を禁止あるいは制限した方がよい場合)
・糖尿病のコントロールが極端に悪い場合。
・増殖性網膜症による新鮮な眼底出血がある場合。
腎機能障害(蛋白尿など)がある場合
心臓、肺に障害のある場合
感染症にかかっている場合(肺炎、感冒、発熱など)

 糖尿病の経口薬療法


経口薬療法

1) スルホニル尿素(SU)薬
  主に膵臓でのインスリン分泌を促進させ血糖を下げる。

2) ビグアナイド(BG)剤
  肝臓での糖新生の抑制、消化管からの糖の吸収抑制、末梢組織での糖の利用を促進してインスリンの血糖を下げる。 高齢者、肝・腎機能に異常のある人は要注意。
飲酒をする人には好ましくありません。乳酸アシドーシスを起こす可能性があり。

3) αグルコシダーゼ阻害薬
 デンプンからブドウ糖に分解する過程の消化酵素を阻害して糖質の消化吸収を抑制する。
 特に二糖類(砂糖、麦芽糖など)からブドウ糖になる段階を阻害する。

 本剤服用中の低血糖には砂糖は効果なくブドウ糖だけが有効です
 副作用として腹部膨満感や腹部のガス(おなら)が増加します。定期的な肝機能のチェック要。
4) インスリン抵抗性改善剤
作用;インスリンの抵抗性を改善して血糖を降下させる。
適応;インスリン分泌が比較的保たれており、インスリン抵抗性が強いと疑われる人。
使用法;食後に服用する。副作用として貧血、浮腫があります。心不全にはなるべく避ける。
5) 速効型インスリン分泌促進剤
作用;食後の短時間の間だけインスリンの分泌を促進し、食後の血糖を下げます。
適応;インスリン分泌が比較的保たれており、食後血糖上昇の著しい人。
使用法;毎食前10分以内に服用する。
副作用として低血糖、腹部膨満感や腹部ガス(おなら)の増加があります。


6)
DPP4阻害薬
  
dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)を阻害する作用のある初めての薬剤。
  インスリン分泌を高める活性型インクレチン(GIPとGLP-1)を分解する酵素(DPP4)を阻害。
  2型糖尿病は、膵α細胞のグルカゴンによる過剰な糖生成と、β細胞によるインスリン産生の低下により起こり、本剤はα細胞とβ細胞の両方に働きかけ、肝臓による糖新生を低下させ、インスリンの生成を増加させる。
GIP:(glucose-dependent insulinotropic polypeptide): 小腸上部のK細胞より分泌。
GLP-1(glucagon-like peptide):小腸下部のL細胞より分泌。

7) SGLT2阻害薬

  SGLTは、ナトリウム・グルコース共役輸送体(sodium glucose transporter)と呼ばれる膜輸送蛋白で、グルコース(ブドウ 糖)やナトリウムといった栄養分を細胞内に取り込む役割(能動輸送)を担っています。

 SGLTの種類はいろいろあり、体内のさまざまな臓器に存在します。そのうちSGLT2は、腎臓の近位尿細管においてグルコースを再吸収する役割を担っています。再吸収されるグルコースのうち、90%はSGLT2の働きに よるもので、残りの10%はSGLT1の働きによるものです。

 健康な人では、近位尿細管のSGLTの働きによって、血中グルコースのほとんどが再吸収され、尿糖は排泄されません。ところが高血糖状態(概ね血糖150-160mg/dl以上)では、 SGLT2の再吸収能を超えた分のグルコースが尿糖として排泄されます。

 SGLT2阻害薬は、高血糖状態だけでなく血糖が正常の状態においても近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し尿糖を増やし、血糖コントロールを改善させます。

  副作用として尿糖増加による尿路感染症及び性器感染症(特に女性)、特に腎機能低下の高齢者では多尿による脱水にも注意。

 糖尿病の自己注射療法


1) インスリン療法の開始にあたって

 インスリン療法と聞くと自分で体に注射する事の恐怖感やインスリン注射は最後の糖尿病治療といった誤った考えを持っている人がいます。
 しかし、糖尿病の本当の怖さは血糖が高いことによって起こる種々の合併症です。この合併症を防ぐためにインスリン療法は最初の治療として必要なこともあります。インスリンは元々体内にある生理的なもので現在使われているものはヒトインスリンで副作用の心配も少なく安心して使用できます。
 インスリン注射はインスリンを作り出す膵臓に対しても悪い影響はなく、膵臓を休ませてインスリン分泌を回復させることもあります。
 高血糖の時はインスリン分泌が抑制され、インスリンが働きにくい状態(糖毒性)にあり、早期にインスリン療法を始めることにより糖毒性を解除でき、インスリンから経口糖尿病薬だけの治療に切り替えられる人もいます。


2)インスリン注射が必ず必要な場合
・インスリン依存状態(1型糖尿病)
・糖尿病性昏睡
・重症の肝障害、腎障害
・重症感染症、外科手術時
・糖尿病合併妊婦
・インスリン注射が望ましい場合
・著明な高血糖(空腹時血糖250mg/dl以上、随時血糖350mg/dl以上)やケトーシスを認める場合
・経口糖尿病薬で良好なコントロールが出来ないとき。

2)インスリン注射方法及び注射部位
 インスリンは皮下注射が基本です。
 注射部位は腹部が最も適しており、その他の部位として上腕、太ももがあります。
 注射を同じ部位に繰り返し注射していると皮膚が盛り上がったり凹んだりするので
 毎回指2〜3本ぐらいずらして(ローテーションして)注射します。注射角度は45〜90度です。


3)インスリンの保管上の注意
・予備のインスリンは冷蔵庫で保管する(凍ってしまった場合は捨てる)。
・使用中のインスリンのペンは常温で保存できる。しかし、直射日光の
 当たる場所、真夏の車の中などに置き忘れない。
 寒冷地では凍らない様 タオルで包んでおく。

・インスリンの最終有効期限に注意する。

4)血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose: SMBG)
  患者さんが自分で血糖を測定すること。家庭での血糖値を知り、それを基にインスリン注射量を調節することにより良好な血糖コントロールを目指すことができる。
  測定時間は主治医の指示により毎食前、就寝前あるいは食後2時間などに測定する。
  また低血糖症状のある時や体調の悪いときに血糖を測定しどんな状態か知ることができる。
  特にシックデイ(病気)の時に役立つ。



5)注射器の針及び自己血糖測定の針の処理
 使用済みの針は自宅で捨てないで病院や診療所に持って来て捨ててもらって下さい。



注射製剤 特 徴
超速効型インスリン  インスリンの追加分泌を補い、食後の血糖上昇を抑える
 速効型に比べ吸収が速く、持続時間が短い。
速効型インスリン  インスリンの追加分泌を補い、食後の血糖上昇を抑える
中間型インスリン  インスリンの基礎分泌を補う
混合型インスリン  インスリンの基礎分泌とインスリンの追加分泌を補う
持効型インスリン  インスリンの基礎分泌を補う
 中間型に比べ、インスリン血中濃度のピークが少なく、持続時間が長い
GLP-1受容体作動薬  GLP-1受容体に特異的に作用し、すい臓からのインスリン分泌を促す。

 シックデイ(風邪などの病気の時)の注意

1) シックデイ(sick day)とは
 糖尿病の人が発熱、下痢、むかつき及び食欲不振などにより食事ができない時をシックデイという。

2)
シックデイの対処法
・指示エネルギー量を摂取する努力をする。食べられない時は
糖尿病食品交換表1、2から流動物や液体の形で糖質を補給するようにする。

・食欲のない時は麺類など消化によいものをできるだけ摂取する。
・十分な水分摂取により脱水を防ぐようにする。少なくとも1日1リットルはとるようにする。(みそ汁、スープ、スポーツドリンク、果汁など)

3)
シックデイとくすり
経口糖尿病薬で治療中の患者さんも一時的にインスリン注射が必要となることがあります。

4)
ただちに来院が必要な場合
・嘔吐、下痢が止まらず食物摂取が出来ないとき。
・発熱が2日以上続き、尿ケトン陽性、血糖値が350mg/dlより
低下しない時。


5)
旅行の時の注意
 主治医から制限されていない患者さんは食事内容に注意し時間スケジュールに無理のない日程に心がければ旅行はできます。
 インスリン注射用具、内服薬、低血糖に備えての食品は十分に用意します。糖尿病手帳を貴重品と一緒にいつも身につけておきます。


6)
内科以外の医者にかかるとき
 内科以外の医師にかかる時は自分が糖尿病であることを告げると同時に血糖コントロール状況や使用している薬を伝えます。内科の主治医にもあらかじめ受診することを伝えます。
 低血糖とその対策
低血糖とは
血糖値が60
mg/dl以下に低くなりすぎて下記のような症状を起こすことを低血糖と言います。インスリン治療者経口糖尿病薬を内服している人に起こり、食事・運動療法だけの人にはふつう起こりません。

低血糖症状
異常におなかがすく,冷や汗,手のふるえ,めまい,どきどきする(動悸),
生あくびがでる,眼がチカチカする,見えにくい,目の前が暗くなる,頭痛,頭が重い
思考力の低下,異常な行動(特に、高齢者ではボケと間違われやすいので注意)。

けいれん,意識がなくなる(低血糖昏睡)。
 低血糖症状は上記以外にその人特有の症状で起こることあり。

低血糖を起こしやすい条件
・薬剤(インスリンや経口糖尿病薬)の量が多すぎる時
・食事時間が遅れたり、食事量または糖質の摂取が少ない場合。
・いつもより激しく長時間の運動をした場合。

低血糖時の対応
経口摂取が出来る時はブドウ糖10gまたは砂糖20gを摂取する(水に溶かして飲んでもよい)。ブドウ糖を含んだ清涼飲料水でもよい。
αグルコシダーゼ阻害薬を服用している人は砂糖は効果なく
ブドウ糖だけが有効です

・15分後、症状が改善しない時はさらに同量のブドウ糖または砂糖を摂取する。症状が改善するまで以上を繰り返す。
・低血糖症状の改善した後、その後の低血糖再発予防のため1単位の補食または食事を摂取する。
・経口摂取が不可能な場合はブドウ糖または砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、主治医と連絡をとり医療機関へ運ぶ。
・意識レベルが低下するほどの低血糖は応急手当で意識が一時回復しても、低血糖を再発する可能性が高いので必ず医療機関を受診。

低血糖の予防
 激しい運動をする時や食事の時刻が遅れるなど低血糖が予想される場合は、あらかじめ1〜2単位の補食(表1、表2から)をする。
 外出の時は糖尿病カードと角砂糖またはブドウ糖を携帯する。

無自覚性低血糖とは
 ふつうは冷や汗や動悸などの自律神経症状が出た後さらに低血糖が進むと意識が低下する。しかし、低血糖時に自律神経症状がでないことを無自覚性低血糖という。アルコール摂取、自律神経障害や低血糖の繰り返しなどにより起こる。このような人は自律神経症状の出る低血糖の軽い時期に低血糖に対処できず、しばしば意識低下により初めて低血糖に気づかれる。しかし、無自覚性低血糖の人も低血糖によるなんらかの症状を持っていることがあるのでこの症状を自覚することにより早めに低血糖に対処できる。

 糖尿病における日常生活の注意
1)規則正しい生活
 適度な運動を行い、過労をさけ、十分な休息、睡眠をとります。
 食事療法をきちんと守り、標準体重を維持し、同じ条件で週1度の体重測定をします。合併症を進行させないため禁煙します。

2)保健衛生と感染防止
  糖尿病の人は細菌に対する抵抗力が低下しているので、皮膚は大変過敏で傷つきやすく化膿しやすい状態にあります。特に血糖値の高い人は汗にも糖分が出てくるのでその糖分が細菌の栄養となり細菌が繁殖しやすくなっています。
・汗をきれいに拭き、身体をいつも清潔にするよう心がける。
 石鹸は刺激の少ないものを選ぶ。

・固いブラシや軽石で皮膚を傷つけないようにする。
・毎食後にうがいや歯磨きの習慣をつける。

3)フットケア(足の管理)
  糖尿病の人は末梢神経障害、動脈硬化のために感覚が鈍くなっていて傷や火傷に気づくのが遅れ重症になり、時には指や下肢を切断しなければならないこともあります。毎日以下の点検をして注意する必要があります。

・毎日足をみてタコや傷を確認する(足趾の間を含む)。
・毎日足を洗い注意して乾燥、清潔を保ち角化防止クリームを使用。
・裸足で屋内外を歩いたり、靴下なしで靴を履くことを避ける。
靴下は毎日替え、できれば縫い目のないものをはく。

・うおのめやタコを除去するのに自分で削らず、医師に相談。
水疱、切傷、擦過傷、痛みがある時は直ちに医師に相談する。

・爪はまっすぐ切り、深爪を避ける。視力障害がある場合は自分で足の爪を切らない。足が冷えても温風器、暖房器具は原則使用しない。
・入浴時に火傷しないように温水の温度(37℃以下)を確認する。
・足にあった靴を履き、毎日靴の中を点検し異物の有無を確認する。ハイヒールは使用しない。定期的に通院し必要なときはすぐに医師にみせる。
・靴は中が足の長さより1〜2cm長く、足の幅と等しく、高さがつま先に対し十分余裕のあるものを選ぶ。靴合わせは立位で、できれば夕方に行う。足に変形がある時や足に異常な加重がかっかっている徴候(タコ、潰瘍)があれば中敷きや補装具も含め特別な靴をつくる必要もあり医師と相談する。